私の好きな文庫本05

2010年に埼玉県狭山市に完成したNさんの住宅から…。

Nさんの住まいは埼玉県狭山市下奥富というところにあります。西武新宿線新狭山駅から徒歩で20分くらいの田園地帯です。ここは私の生まれ育ったふるさとでもあります。

Nさんの敷地の近くに「広福寺」という古いお寺があります。竜宮城のような美しい山門が狭山市の文化財に指定されています。今日はこの広福寺にまつわる清川八郎をテーマにした幕末のお話です。

清川八郎は庄内藩の大きな酒屋の長男として生まれ、江戸に出て学問を修め、やがて尊王攘夷運動に奔走するようになります。横浜焼き討ちを計画するうちに幕府に追われるようになり、つてを頼りにして武蔵の国奥富村の広福寺に身を隠しています。奥富村の庄屋、広福寺の住職など尊王攘夷運動を支援する人たちがいたようです。

その後遊説で九州、京都と諸国を廻ったあとに江戸に戻ります。幕府に浪士組という非常事態に備えるための組織を献策してその代表各になり、集めた浪士250名を引き連れて将軍警護の名目で京都に上ります。京都壬生に着いた夜、新徳寺で250名の浪士を前に、自分たちは朝廷のための尊王攘夷の志士であると演説をして血判を押させるものの、芹沢鴨と近藤勇のグループの10数名が反対し離脱することになります。そして、この離脱したグループがのちの新撰組となっていきます。

清川八郎は幕府を倒して新しい世の中を作りたくて奔走したのに、結果的に倒幕の志士たちを捕縛する新撰組のもとを作ってしまったことになります。江戸に戻った八郎は幕府側から危険視され、34才で暗殺されます。

清川八郎は自分の才能を過信したのかも知れません。いくらうまい演説や口舌で人を集めても人を動かすことはできません。人を動かすものはその人が持っている「徳」のようなものではないでしょうか。今の政治状況にもあてはまるようにも思います。そんなことを考えさせる作品で、私の生まれ育ったふるさとにもご縁があり、とても好きな作品のひとつなのです。

＊＊＊そんな訳で今日のおすすめ文庫本は…＊＊＊
「回転の門」（全1冊）藤沢周平（文春文庫）