私の好きな文庫本08

今日は幕末の長岡藩の家老、河井継之助のお話です。

河井継之助は1827年生まれの長岡藩（いまの新潟県長岡市）の人です。江戸に出て陽明学を学び、さらに諸国を歩いて高名な学者を歴訪し、開国の考えを抱きながら、尊王攘夷で煮えたぎっている日本を不思議と冷めた目でみています。長岡藩の要職の家に生まれた継之助は、幕末の時勢の混乱から長岡藩をどのようにしたら守れるかを考えていたようです。

幕末の最終局面で、継之助は藩の家老に抜擢されます。そして藩を近代化し幕末の雄藩のひとつにします。幕府の目を盗み、自ら横浜の武器商人と接触をして洋式武器を購入し、新潟港から長岡藩に運び込みます。その中には当時の日本には3台くらいしかないといわれたアームストロング砲という強力なものまでありました。

継之助は長岡藩を強力に武装することにより、中立の独立国にしたかったようです。武力で対等に独立することにより、官軍と平和交渉を進めて藩を守るということを考えていました。この時代に、「内戦を避ける」という考え方を持って実際に行動したのは勝海舟、坂本龍馬そして河井継之助の3人くらいだったのではないでしょうか。抑止力としての武装というのは現在の国際社会にも通じているところがありますね。

ただ、その平和交渉に失敗をしてしまいます。理由は交渉相手に恵まれなかったからです。北越に進軍してきた官軍の軍監は土佐の岩村精一郎という人でした。24才と若く、血気にはやり、継之助の意図をくみ取る度量がありません。数回の交渉の甲斐もなくついに交渉決裂となり、やむなく藩をあげての北越戦争となってしまいます。

「戦争を避ける」という考えで行動していた河井継之助ですが、本人の意図に反してやむを得ず藩を戦争に巻き込むことになってしまいます。

明治になって後年に長州の品川弥二郎は「そもそも河井の相手に岩村のような小僧を出したのがまちがいのもとだ。惜しい男を亡くさせてしまった。」と周囲に話していたと言われています。

「事がなる、ならない」は人智を超えたところにあるのかも知れません。そんなことを考えさせる作品で、何度も読み直している作品のひとつです。

　　　　＊＊＊そんな訳で今日のおすすめ文庫本は…＊＊＊

　　　　　「峠」全2冊　司馬遼太郎　（新潮文庫）